地方自治を破壊する「大阪維新」に兵庫県政を渡せない
菅政権延命策への県知事選利用に「ノー」
中央集権に屈しない兵庫県政を!
松本 誠(市民まちづくり研究所)
連帯兵庫みなせん 代表世話人&事務局長
7月1 日に告示される兵庫県知事選は、戦後の県知事選の中でも後世語り継がれる画期的な知事選になりそうです。過去半世紀ほどの兵庫県知事選の大半は、共産党を除く“オール与党”体制に支えられた政党や団体の支持と、長きにわたって築き上げられた「兵庫の草の根保守基盤」に支えらえて、自治省(総務省)出身の現職や後継者が圧倒的な強さを発揮した選挙でした。
今回も、最長5期にわたった井戸知事が引退し20年ぶりに知事が交代する選挙だったが、3月後半になって最大会派の自民党県議団の分裂組が大阪府財政課長を担ぎ出したことから一転して、大阪維新の全国展開戦略と菅政権の「衆院選後の政権延命策」が絡んだ、維新と自民党中央の政治戦略が兵庫県知事選を舞台に繰り広げられることになりました。
3月以降の経過から、もう少し「選挙の構図」を詳しく見てみよう。 兵庫県の知事選挙は県議会の過半数を占めてきた自民党と、連合兵庫が主導する「5党協」路線で共産党を除く自公民がそろって現職または後継候補を支援してきました。昨年12月に井戸知事が今期限りで退任を表明した後、自民会派は副知事で早くから後継と目されていた金沢和夫氏にいち早く立候補を要請。これに対して井戸県政の継承路線に異論を唱えていた自民の一部議員が金沢支援の撤回を求めて対立し、3月になって分裂選挙が決定的になりました。
ところが分裂組(11名、後に宝塚補選当選者も入り12名)が担ぎ出したのが、総務省出身の大阪府財政課長の斎藤元彦氏だったことから、混迷が輪をかけることになった。分裂組に斎藤氏を紹介したのは兵庫県の自民党国会議員とされているが、斎藤氏は2018年に大阪府に出向し当時府知事だった松井氏(現大阪市長)の下で財政課長に就き、維新が県知事選の独自候補として絞り込んでいた一人でした。分裂組の斎藤氏擁立が表面化すると間髪入れず、維新の松井、吉村両氏は斎藤支援を表明し、立候補表明後いち早く日本維新の会が「斎藤推薦」を決めました。
これに対して自民党は4月7日に県連選対委員会で金沢氏の推薦を決定し党本部に上申したが、県連所属の国会議員15人全員が斎藤推薦で一本化し、党本部が9日地元の決定を覆し「斎藤推薦」を決定しました。
一方、野党は知事選に初めて対応する立憲民主党はじめ国民、社民、新社会も、当初は金沢支援には距離を置き、第三の候補擁立を模索していました。“本命”とした泉房穂明石市長が4月初めに立候補を否定した後も、なお独自候補擁立を模索していましたが断念。5月下旬になって立憲民主党は「維新県政を阻むために金沢氏を全力で支援する」ことを決定し、国民、社民、新社会もほぼ同じ立場で歩調をそろえました。共産党はこれまでの知事選でも「唯一の野党」として独自候補を擁立してきたが、今回も4月半ばになって金田峰生氏を擁立しました。これまでの県政批判と「自民と維新の相乗り」候補は金沢氏と大差ないという、両候補を同列に置いた政策批判の姿勢に徹しています。
こうした経緯の中でたたかわれる知事選の焦点は、どこにあるのでしょうか?
首長選挙とくに知事選では、普通の場合は現職または現職後継者が行ってきた「県政の検証」が焦点になり、政策の優劣等が焦点になりますが、今回は金沢、斎藤両氏の政策に大きな違いがあるわけでなく、長い県政の実績の中から見える現職後継者の政策の厚みと、そうした「県政刷新」を唱えながらも維新特有の「身を切る改革」というキャッチコピーに留まる自民・維新候補との違いは、表面的には見えにくい。
冒頭に述べた通り、今回選挙の最大の特徴であり“本質”的な焦点は、大阪で13年余にわたって行われてきた「維新政治」「維新行政」を兵庫で許していいかどうかにあります。2度にわたって住民投票で否決された「大阪市廃止」(大阪都構想)の“党是”を強引に推し進めようとしたことや、医療・保健、福祉、教育・文化、交通や水道などの公共サービスを「二重行政の廃止」や「行政のスリム化」を掲げた「行政改革」の名のもとに、統・廃合、廃止、削減、民営化、職員削減を推し進めてきました。その結果どのような状況にあるかはここでは触れないが、コロナ禍の中で東京を上回る医療崩壊やコロナ死亡者を出すなど最近の状況からも「大阪維新の府・市政」を兵庫で再現させるわけにはいきません。
前回知事選ごろから兵庫への進出が表面化していましたが、過去2回の参院選で1議席を占め、前回はトップ当選したとはいえ、維新単独候補の場合にはまだ知事選を制する可能性は薄かったが、今回は自民県連の分裂に乗じて自民党中央を動かし、県選出国会議員15人全員が一致して県連多数派の意思決定を覆して維新推薦候補に「相乗り推薦」という状況がつくりあげられました。
この背景には、厳しいコロナ禍の中で「五輪開催」を強行して次期衆院選で政権維持を図ろうというギャンブルじみた賭けに追い込まれている菅政権の「政権維持戦略」が色濃く反映しているのは明らかです。すなわち、20年ぶりの知事交代後の兵庫県政の将来を考えてという目線はどこにもなく、「自公政権」に維新を加えて衆院選後の政権維持を図る“政局”に県知事選を利用したに過ぎません。
知事選は兵庫県民にとって、4年に1回の重要な選択の機会です。少子高齢化と人口減少、コロナ禍の中で疲弊した県民生活を再建していくために、県民主体の県政を再構築していく貴重な機会です。県民の幸せと県政の未来を賭ける知事選を、中央政党の政治的都合によって押しつける知事を県政のリーダーに就けるわけにはいきません。
以上のように、今回選挙の最大の焦点は「維新に県政を渡さない」「中央政党の中央集権的県政支配を許さない」ことにあります。
兵庫県は「地方分権の旗手」とも言われた貝原俊民・前知事以来、地方自治に中央集権を許さない「地方自治、住民自治」を前面に掲げた県政を進めてきました。また、関西では自公政権や大阪維新がもくろんだ「中央集権的道州制」に反対して、府県の連合体である「関西広域連合」をいち早く設立し、発足当初から5期10年にわたって兵庫県の井戸知事が初代連合長として率いてきました。
副知事3期を含め15年間にわたって県政中枢で活動してきた金沢氏は、政党の推薦をすべて断って「県民党」として、こうした地方自治を守り県政を率いていくことを明確にしています。いわば、今回の知事選の構図は「中央政党による兵庫県政の支配を許す」のか、「地方自治、住民自治に基づく県民主体の県政」をつくるのか―が大きく問われる選挙になります。
この5年半、兵庫県における「市民と野党の共闘」の結び目役を担ってきた市民団体「連帯兵庫みなせん」は、国政選挙に特化し地方選挙に関わることは避けてきました。しかし、今回は以上のような危機感と、維新県政を許すと今後の兵庫県の自治体で首長選、議員選で大阪のような維新の浸透につながりかねず、秋に控える次期衆院選にも大きな影響をもたらすことを懸念しました。4月以降、「市民と野党の共闘」で連携する野党6党に呼びかけて、知事選では「反維新」候補の票の分散を避け、反維新候補の一本化を図るよう要請してきました。
5月下旬には立憲民主党県連が「維新県政を阻むために、全力で金沢氏を支援する」ことを決定したのに続き、社民党、国民民主党、新社会党も相次いで歩調を合わせることを表明しました。独自候補を擁立している共産党は「両候補の方向性に大きな違いはない」として、独自の行動を主張しています。連帯兵庫みなせんは、今後の「市民と野党の共闘」にも影響することを懸念し、共産党中央委員会の志位和夫委員長に再考を求めて要請書を送り“直訴”中です。
大阪府・市政に見られる「反・民主主義的政治手法」「住民自治とは無縁の権力政治志向」「地方分権とは真逆の中央集権的志向」「地方自治の破壊」をもたらす「維新県政」を許すことの危機感を共有し、先ずは「県民党」を掲げた金沢県政を実現して、新しい県政の政策的課題は「県民主体の県政」を進める中で反映させていきましょう。