「空回り、ばらまき、便乗」三重奏のコロナ経済対策

──新型コロナ感染症と、どう付き合っていくか──
松本誠のメールマガジン

「新型コロナ」市民ジャーナル(5)2020.6.4

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(6) 議会の役割どこへ? コロナ対応で霞む議会のチェック機能
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 政府は5月末まで延長していた「緊急事態宣言」を1週間繰り上げ25日、全面解除に踏み切った。というよりも、5月末までの延長を決めた4日直後から、規制解除への模索が始まっていた。まず大都市部以外の地域での宣言解除を模索し、14日に39県で宣言を解除。1週間後の21日には関西3府県を解除し、その翌日辺りからすでに全面解除の方針をちらつかせて25日の全面解除に至った。
 確かに、解除の理由とした感染拡大の小康状態や鎮静化の動向はあったが、専門家会議の中には急いだ解除には「再び感染再燃」の懸念を指摘する声もあった。しかし、実質的には3月から始まっていた経済活動の自粛による経済的ダメージ拡大への対応を優先する政権サイドの判断が、慎重論を押し切った。その“手土産”が第二次補正予算の編成だった。
 第一次補正予算で計上した経済対策の多くが、すでに事業活動や暮らしの窮迫にあえいでいた人々の手元に届かない不満の声が嵐のように沸き上がっていた。時期を同じくして「首相の保身のための恣意的人事」との批判が高まっていた黒川検事長の定年延長問題とそれを正当化する検察庁法の改正、さらに同検事長の常習賭博の発覚と辞任などによって内閣支持率が急落している最中だった。
 今回は2回の補正予算に見るコロナ経済対策の「空回り」と空前の「ばらまき」、政治家や省庁の「便乗」による無駄遣いの横行を検証し、官民挙げてのコロナ経済対策の“大合唱”に潜む危険性を見てみたい。

200兆円を超える「空前絶後、世界最大の(経済)対策」と豪語した補正予算

 27日閣議決定した第二次補正予算案は、歳出総額31兆9000億円、4月30日に成立した一次補正を上回る空前の規模だった。一次補正の成立から1ヵ月足らずの追加予算。本来は「積み残し」の補正でなければ一次補正の失敗、失策になるために、当初は数兆円規模にとどまるとの見方もあったが、政権の支持率が急落するとともに膨らんでいったという。
 25日の記者会見で首相は「先の補正予算と合わせ事業規模は200兆円を超える。GDPの4割に上る空前絶後の規模、世界最大の対策のよって、百年に一度の危機から日本経済を守り抜く」と胸をそらせた。実態とかけ離れた、いつもの大言壮語に多くの人はしらけ気味だったようだが、それにしても嘘が多すぎる。
 一次補正予算は「事業規模で117兆円」と言われる中身の大半は、国の補助を受けて民間が実施する事業や政府系金融機関による融資なども含めた総額で、実際に政府が支出する「真水」と呼ばれるのは25兆6914億円だ。財源の全額を、将来国民が返済する国債(借金)で賄う。これから国会審議に入る二次補正予算も、真水部分は31兆9114億円だが、このうち10兆円は使途不明の破格の予備費として計上した。財政投融資や民間金融機関の融資も含めた事業規模は、なぜか一次補正と同じ117兆円とした。
 一次補正の時から指摘されているように、政府支出は2回の補正併せて57兆ほどに過ぎず、米国の220兆円とは比較にならず、OECD諸国と比べても胸を張る金額ではない。
 問題なのは金額の多寡よりも、「経済対策」という中身である。

「少ない、遅い」に加えて、コロナ対策にならない「無駄遣い」の横行

 一次補正では「減収世帯への30万円給付」を直前に取りやめて「10万円の一律給付」を盛り込んだが、肝心の給付は6月になっても世帯に届かない不満が充満している。
 中小零細事業者に最大200万円を支払う「持続化給付金」は手続きが停滞し、4月~5月の経営窮迫時期はおろか6月になっても支払う見通しが立っていない。加えて769億円という巨額の業務委託費と電通や人材サービス大手のパソナが絡む複数の受託団体を経由した問題も浮上し、費用と時間の大きなロスが生じていることも発覚している。
 一家に2枚配るアベノマスクに投じた466億円の使い方にも疑惑が生じているように、巨額の予算の出し方にも不信と疑惑が渦巻いている。
 一次補正で大きな問題になったのに、1兆7000億円を盛り込んだ「Go Toキャンペーン」事業があった。コロナ収束後の「経済V字回復」を狙って、観光や外食費用の一部を補助するものだが、外出自粛が続く中で「優先順位が違う」と批判の的になった。こうした不要不急の事業やコロナ対策との関連性が理解できない事業が、山のように盛り込まれていると、毎日新聞が5月末の連載で指摘している。

◇公共事業をVR(仮想現実)で体験──などに177億円(国交省)
 「企業がデジタル技術を学ぶための育成センター」「最新機器を体験・実証するロボット実験フィールド」「データセンター」「熟練技能のビッグデータ化」などの整備が並ぶ。いずれもコロナ緊急対策というよりも、コロナ対策に便乗して押し込んだ事業というしかない。
◇リゾートを楽しみながら仕事をできる環境整備や雇用維持のためのツアー補助金──30億円(環境省)
◇留学生や研究者が帰国後、コロナ対策で一時待機するために、富士山麓など文科省系の施設4か所の改修事業──12億円(文科省) 空港近くのホテルを借り上げる方が安くて速いのではないか?
◇五輪選手のサポート拠点になる国立スポーツ科学センター改修整備費──1億8000万円(スポーツ庁)
◇ジェトロ(日本貿易振興機構)の通販サイトの整備運営事業費──40億円(経産省)
◇国内・海外向けの広報活動費──150億円(各省、内閣府だけで100億円)
 緊急経済対策のTVやインターネット広告費60億円や、感染症をめぐる海外のネガティブな対日認識を払拭する情報発信に24億円などを費やす。

 これらはどうみても、危機的なコロナ対策緊急予算とは言えず、各省庁が便乗して予算の分捕り合戦を行った結果、感染症対策にかこつけての便乗予算としか見えない。災害時など緊急対策に乗じた“便乗予算”は、東日本大震災の後にも、「国土強靭化」の名目のもとに国道整備や政府出先機関の整備費など、震災とは関係の乏しい“便乗事業”が多く盛り込まれ、批判を買った。今回は、これまでの災害対策とは比較にならない予算が組まれたことから、便乗度合いも大きく、無駄遣いの横行になった。 その一方で、本当に必要なところに資金が投入されない。一次補正約25兆7000億円のうち、19兆余りは一律10万円給付に必要な経費と雇用の維持継続給付金だ。本来は緊急的に支出しなければならない「感染拡大防止と医療体制の強化や治療薬の開発」は8000億円ほどにとどまり、うち医療体制の強化に向けられたのは1500億円足らずだった。医療界からは3兆円は必要との声が上がっていたが、医療崩壊への危機感が政府にあったのかどうかが疑われる。感染症対策の最前線である自治体への交付金は1億円にとどまり、全国知事会などから猛反発を受けて二次補正で2兆円積み増した。積み残された生活困窮世帯などは、絶望の淵に追い込まれている。

“借金大国”の金庫に群がっていていいのか! 企業の内部留保460兆円に目を向けよう

 いま、コロナ対策予算をめぐっては、国を挙げて異様な興奮状態に陥っている。政府も国会も自治体も、これまでは口にしたことのないような「100兆円、200兆円」という財政支出をコロナ対策に求める声が与野党問わず渦巻いている。財源や財政の将来を懸念してブレーキをかけることが「タブー」になったような空気が生じているという。国民民主党は「100兆円の追加経済対策」を打ち上げ、反緊縮学者らは「140兆円で現金給付20万円を2回」などの薔薇マークキャンペーンを張っている。自民党の若手グループからも同様の要求が出ている。
 コロナ前までは、この国がGDPの2倍、国民一人当たり800万円の借金を抱えている先進国で断トツの財政危機大国であることがのしかかっていたのを、まるで忘れたような状態にある。与党議員からは「ごねれば出る打ち出の小づち」という声も出るほどの、二次補正予算の決まり方だったという。
 経済学者の水野和夫氏が4月から5月にかけて、新聞や雑誌のインタビューで語っていることに興味をひかれた。
 「経済支援はスピードが大切だから、政府による一定の支援は必要だ。しかし、日本の国債発行は、すでに限界に近い状態にあることは間違いない。国がもたもたしているなら、日本企業には460兆円の内部留保がある。企業がまさかのときに備えてため込んだ金だ。いまがその『まさかのとき』だ。このうち130兆円は賃金を抑えて得た“未払い賃金”と内部留保金の“未払い利息”に当たる。これは企業が不当に得たものだから、国民に還元すべきものだ。130兆円を活用すれば、国民一人当たり100万円、1世帯当たり250万円ほど渡せる。経団連会長は企業の先頭に立って頑張るべきだ」